噛み潰した苦虫が奥歯に詰まって取れない

ほろ苦いどころじゃねえんだよな

グラス


どうやら僕は、ほんの少しだけだろうけど記憶力が良いらしい。


出会った時期もしくはその人を認識した時期、会話の内容、その時の状況や季節や情景、相手の仕草や風貌。
仲の良い人や興味を持った人、心を許した人とのことは、細かいところまで、嫌になるほど覚えていたりする。


これは全く良いことだとは思えない。自分にしっかり記憶がある会話すら、相手の記憶には無い、ということのほうが圧倒的に多い。(自分が誰からも興味関心の持たれないつまらない人間であることの証拠かもしれないが)とにかく自分ばっかり沢山の事を覚えていることに、自分の執念深さや重苦しさを感じて嫌気が差す。

きっとこれらの記憶に意味なんてないから、今すぐに全部消えて欲しいところだ。そして全ての人に対し無関心でありたい。一方的に興味関心を抱かなければいいのだろう。きっと。どんなに大切な人だとしても。大切に思ってしまうからこそ、自分だけこんなにたくさんの事を認識して記憶してしまう、というのが一番苦しいのである。


そもそも他人の顔と名前を一致させるのは苦手なのに(これは私が他人の顔を直視できないことに問題があるのだが)、なんてバランスの取れない記憶の仕方なのだろう。誰の存在もまあまあの早さで認識し、まあまあの記憶で、まあまあ適当に関わっていけたら、きっともう少し気楽に生きられるのかも知れない、と思う。


記憶力が良いのか、単に「何でも根に持ちやすい」のか、何だか後者のような気もするが、どちらだとしても今の自分には腹立たしさしかない。


それにしても、良い思い出よりも悪い思い出のほうが記憶に残ってしまいがちなのに、いざ誰かと決別(理由は様々だが)しようとすると、その人との楽しかった記憶や笑顔が頭に浮かんでしまうのは何故なのだろう。元々希薄な人間関係をこれ以上薄くしないようにと自分自身の深層部で操作しているのだろうか。それはそれでちょっと余計なお世話だなって思う。どうせ一生ぼっちなんだから放っておいてくれ給え。


あぁもういっそ自分のことなどみんな忘れてしまえばいいのにな、自分ことを誰も認識しなくなってしまえばいいのにな、と思ったりする。そしたら人間関係の柵も無くなるかしら?どうせ誰の記憶にも残らないのなら一夜限りの関係だって今まで以上に容易いんだろう。そして僕自身も誰のことも覚えてなくて済むのなら。どうやら僕は沢山の記憶や念(嫉妬や色情因縁も含む)に囚われすぎているのだ。

よく「割り切った関係」なんて言葉を聞くけど、実際表向きそういう関係だったとしても僕は全然割り切れないヨ、なんてことがあまりにも多すぎた。何だよ、セフレに恋してしまって自殺しようとするとか、ただのクソ女じゃないか(過去の話だが)。そのくせに「あなたになんて興味も何も無いから、身体だけの関係だから、この関係に納得してるから」みたいな感じを醸し出せるのが困ったところである。いやクソ女ならクソ女らしくクソ女感を全面に出せよ。だから「都合のいい女」になっちまうんだろうが。


これ以上色情云々の話をするとどんどん死にたくなるのでやめておこう、と思いながら体勢を変えたらジーンズの膝部分に謎の血痕のようなものがあることに気が付いた。なんだよ。いつのだよこれ。全く思い出せないんだけど何なんだよこれ。とりあえず帰ったら薄めた漂白剤で手洗いしてみるか。なんでこういう記憶は残ってないんだ。本当にアンバランス過ぎる。



恋人に「お前は極端すぎるんだ、ゼロか百しかないのか」と説教を受けたことを思い出して死にたくなってきたのでこの辺りでやめておこうと思う。

何事も、バランスが、大事なのだ。